専門家に聞く 成長する会社の条件とは

障がい者の雇用を事業の中心にすえたRIBERAL(リベラル)の経営的な取組みはなぜ成功しているのか。
崔光氏(流通経済大学経済学部教授)、大村和夫氏(法政大学経営大学院教授)のお二人にインタビューでお話を伺いました。

特例子会社へのリベラル株式会社の取組みはなぜ成功したのか
流通経済大学経済学部教授 崔 光 氏

私は最近、主に「企業による社会的価値の創造」という分野を中心に研究しています。そうした研究の中で特例子会社としてのリベラルの取組みを拝見してきました。
通常、特例子会社は売上や生産性よりも障がい者の雇用継続を重視します。なぜなら障がい者の雇用の促進等に関する法律では、企業は障がい者の法定雇用率2.0%を達成することが義務づけられているため、売上および生産性を上げることは法定雇用率を達成してから考えるわけです。しかしリベラルでは、法定雇用率のみならず、障がい者に生産性を求め、売上の半分以上(55%)を障がい者の仕事で生み出す、まさに障がい者が主役の会社となっております。健常者は彼らの仕事の支援に徹しているという点が、本当に素晴らしいし、仕事自体においても、障がい者の本気を引き出す仕組みが凄いと思います。

障がい者雇用といえば作業の一部を単純作業にしライン化するのが一般的ですが、リベラルは数人の障がい者にセル作業方式でまるごと仕事を受け持たせています。彼らの工夫と独自のコミュニケーションでお互いが様からの声を必ず障がい者に伝え、「自分達がいかに社会から必要とされているか」を常に意識させている点も素晴らしいと思います。

一言で言えば「リベラルは、障がい者が仕事を通じて社会の一員になれるということを証明した会社」ですリベラルでは、障がい者の仕事ぶりを「作品」という言葉で表現しますが、健常者の仕事に負けない(あるいはそれ以上の)クオリティを社会に提供しているという「自負」と「こだわり」を感じます。まさに、プロ精神というものを障がい者にもとめている点にリベラルの本質があると思います。

まだまだ障がい者雇用では非正規雇用が多く、賃金も他の一般社員との間に大きな格差がありますが、リベラル株式会社では、一般の社員並みの待遇を保証しています。こうした取組みが、他の特例子会社でもできれば障がい者雇用は次の次元に行けるのですが、ただリベラル株式会社を含めた数少ない企業だけが、今のところ成功しているだけです。リベラルには、これまで培ってきた障がい者雇用のノウハウを社会の中でどんどん広めて行って欲しいと思そのためにも、そうした環境を担う健常者の育成が益々重要になっていくと思います。

崔 光(チェ クヮン)氏プロフィール流通経済大学経済学部教授。韓国ソウル出身、93年来日。北海道大学経済学研究科後期博士課程修了。経営学博士。専攻分野は組織論、戦略論、事業創造論など。「企業の価値創造や起業家育成」を生涯のテーマとする。日本ベンチャー学会に所属。51歳。

リベラルが他の企業と異なる3つの特長  法政大学経営大学院 教授 大村 和夫氏

私は企業分析、企業価値評価が専門分野ですが、リベラルに関しては、次の3点が他の特例子会社とは決定的に異なる点であると、判断しています。

1つ目は、リベラルは親会社から自由を与えられたことで、親会社に依存しない企業風土が生まれていることです。細かな点は割愛しますが、親会社からの厳命で、健常者2名で特例子会社を立ち上げ、障がい者を5名雇用するところから始まっています。さらに障がい者の家族との関係まで考慮しなければならないよう環境の中から、障がい者をどうマネジメントするかではなく、健常者をどうマネジメントするかを考え始めるわけです。例えば、職場で問題が起きるのは当たり前で、注意・指導はするが根本的な解決には時間がかかるから比較的のん気でいるようにする。この考え方は、障がい者雇用で関係の深い特別支援学校の意見とも一致しています。健常者も同様ですが、変えようと働きかけても基本的には変えられないし、働きかけるとかえって疲れてしまうことがあるから、見守り続けるのです。そうやって障がい者と健常者の接点をうまくコントロールしたことが、今の結果になっているということです。さらに障がい者間の連携が生まれているという事実も、親会社から自由を与えられて模索を繰り返した結果です。

2つ目は、OA機器のリサイクルが障がい者の適性にマッチした点です。障がい者は、磨くことに集中します。ところがどこで終わるかわからない、同じところを何度もやるのです。ただ、そこに適性がありました。いい結果を生む仕事になったわけです。親会社からリースの中古品が回ってきたのも、良かったと思われます。初年度から黒字というのは、賞賛に値します。健常者が初めは売り上げを作っていた部分もあるけれど、今では売上の55%が障がい者の売り上げです。親会社とは別の販売ルートができるまでになっています。事業者単体としても親会社の中で優良セクションであり、親会社の負担なっていない点は、大いに評価できる点です。

そして3つ目ですが、先ほど述べた特別支援学校なども含めた、障がい者に関わる地域のサークルにうまく参画している点です。リベラルが企業として障がい者の雇用にすんなり入っていける環境があったわけです。東京都立白鷺特別支援学校に、リベラルで働く知的障がい者の方が実技指導に行っていますが、そこでコピー機を磨く授業をするわけです。すると学生の尊敬の仕方が半端じゃありません。耳を傾け先輩の言うことを聞き、動きを凝視しています。考えられないことですが、事実です。リベラルの成功を、もっと真似てくる会社があるのではと思っていましたが、ほとんどありません。なにが問題なのか考えていますが、やはり決定的なのは商品力。次に健常者側の覚悟、でしょうか。そして、やりようによっては収益化できるという先見性をリベラルが見せたことには大きな価値があると思います。
もしリベラルに関心を持たれたのであれば、一度企業訪問してみると良いのではないかと思います。百聞は一見に如かず、です。きちんとした商品の出来上がりに、商品の付加価値を見出されるでしょう。リベラルにはさらに、企業としての持続可能性を模索して欲しいと思います。

大村 和夫(おおむら かずお)氏プロフィール法政大学大学院イノベーション・マネジメント研究科教授。野村総研、通産省大臣官房企画室などで活動後、滋賀大学教授を経て2004年から法政大学に。企業分析、企業価値評価などが研究テーマ。日本経済学会、日本金融・証券計量・工学学会、日本金融学会、日本経営分析学会などに所属。65歳。